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2017年2月28日 (火)

中村紘子氏~その悲しい氏自身の演奏~

 私自身の聞いた話でのことで、ある知人が、小学生のころ、あるピアノの先生についた時のことです。

その人は、ピアノを弾くときに手首を挙げて、弾くようにと指導されました。でも、その人は、どうしても、手を水平にピアノに置き、弾くことしかできず、どうしても先生の指導のようには弾けませんでした。

確かに手首を挙げて指を渾身の力で弾けば、強い打鍵はでます。でもその人には、それはできないので、結局、最後には小学生高学年でやめてしまい、違う習い事をしたそうです。

いつだったか、中村紘子氏の追悼番組で、氏は、ピアノを弾くときに、強い打鍵を弾くときにはよいのですが、手首を高い位置に置いて弾き切るようにして弾いていました。

氏は、1965年のショパン・コンペティションで、四位の入賞者です。何度も言うように、この時の優勝者は、マルタ・アルゲリッチです。

その、NHKの番組によると、その後氏は、アメリカに渡り、名門ジュリアード音楽院に留学します。そのときに、付いた先生に、あなたのそうした弾き方では、テクニックは出ないし、とにかく今までの弾き方を直して手首を上げずに、不通に手首を下げて、弾きなさいと言われたそうです。

何十年も今までの弾き方で弾いていた奏法を変えることは容易ではありません。

氏は、今までの奏法を捨て、新しいジュリアード音楽院の先生の弾き方をしようとしても、もうどうにもなりません。時々、昔の奏法がでたり、新しい奏法がでたり、演奏を改めて聴いてみるとテクニック的には、その相乗作用で、悪い音楽になってしまいます。

その追悼番組に出ていた、音楽評論家と思しき人は、この両者の奏法が出たり、出なかったりして、いろいろなモノが出て、演奏が面白いなどと表現していましたが、これほど、かわいそうなことはないと思います。

結局、昔の日本での奏法で小さい時から練習していたのですから、アルゲリッチやポリーニやミケランジェリのような鉄壁なテクニックと表現力を兼ね備えたピアニストとは違う奏法を身に着けて、ショパン・コンペティションでも入賞したのに、前の奏法を捨て、新しい奏法で弾くということは,もうできないことではないでしょうか。

アルゲリッチやポリーニももうすでに過去のような素晴らしいテクニックはもう聴けないですが、氏は、ピアニストとして数々のレパートリーを、違う奏法で身に着けてしまったのですから、もうどうにもならないでしょう。

奏法さえ、間違いがなければ、そのまま音楽が深まっていきますが、ジュリアード音楽院での先生の方が、結局正しかったわけですが、もう元には戻れません。

先生の言う通り、完璧なテクニックも感情表現にしても氏の子供のころからの奏法では、出ませんよとの言う通りでした。

氏は、このジュリアード音楽院での指導で、この両方の奏法が、ごちゃまぜになった状態で演奏せざるを得なかったのでした。

奏法さえ、しっかりしていれば、子供のころに覚えた、ショパンの作品なら、指が覚えいるので、テクニックで、練習さえしていれば、自然と感情表現など容易に出てきます。

しかし、奏法で迷いがあれば、弾くことだけに専念しなければ、テクニックも感情表現も出せずに、弾くことに専念しなければなりません。

氏は、そうした意味で、戦後日本の代表的女流ピアニストでありながら、私も誰も、ピアノ音楽が分かる人には、低い評価しか与えられない、不幸なピアニストであったと言えます。

亡くなった方にこうした、鞭うつようなことをしたくはなかったのですが、私自身なぜ、氏があの程度の音楽しか創れなかったのかの疑問が、このNHKの氏の追悼番組を見て分かった次第です。

氏の死去は、昔の日本的ピアノ奏法の犠牲になった一人の不幸な女流ピアニストたちの末裔も含めて改めて、考えさせられた事象でした。

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